キャッシングの近道
ピクテやロンバード・オデイエのおよそ6〜7倍の大きさであろうか。
SBCは96年の秋から、プライベートバンキング部門の収益を公表しているが、それによると97年の前半6ヵ月で6億5300万スイスフラン(前年同期比36%増)の収益を挙げた。
これは投資銀行部門であるSBCウオーバーグであげた6億9100万スイスフラン(前年同期比60%増)に匹敵する。
この両部門のおかげでSBCの97年前半の収益は、不振の国内商業銀行部門を補いつつ、13。
3億スイスフラン(約1000億円)、前年同期比84%増というものだった。
SBCはこの両部門の戦力を日本長期信用銀行との合弁に投入する。
SBCは、フェリエール・ルーリンの他にパーゼルのバンク・アインガー、ベルンのアルマン・フォン・アーンスト、チューリッヒのアドラーなど多くのプライベートバンクを経営している。
さらに最近はスタンダード・チャーグード銀行のプライベートバンキング関連ビジネスを買収したり、チエース・マンハッタンからプライベートバンク関係のかなりのポートフォリオを手に入れた。
ライバルからはSBCは“膨張主義”といわれているが、1998年春にはスイスユニオン銀行(UBS)と合併し、日本の簡保を抜いて世界最大の資産運用会社となる。
運用資産の総額は9200億ドルとなり、うちプライベートバンキングの部分は5800億ドルと、ライバルのクレディ・スイスの約2倍の規模である。
クレディ・スイス(CS)も負けてはいない。
97年秋には、フランスの中堅のプライベートバンクのオッタンゲ銀行を買収した。
オッタンゲは210年の歴史をもち、パリに本拠を構え、ジュネープやニューヨークにもオフィスを持っている。
スイスユニオン (UBS)もドイツのプライベートバンク、シュレーダーをイギリスのロイズ銀行から買収している。
SBCが収益的にプライベートバンキング部門に依存しているのは、他のスイスの大手銀行と似たようなものだ。
しかし、三大銀行といえども圏内の商業銀行市場と同じように、プライベートバンキング市場を支配しているわけではない。
客層も違えばセグメントも異なる。
大手に対抗して中小は中小なりに活躍している。
スイスのプライベートバンキング市場には、ジュネープのプライベートバンクに加え、チューリッヒのジュリアス・べアやバンク・ジェ・フォントベル、さらに、リヒテンシュタインのライノルやリパブリック・ナショナルバンク・オプ・ニューヨーク(スイス)のアメリカ勢からナショナル・ウエストミンスター銀行のプライベートバンキング部門であるクーツまで、世界中から集まった数多くの競争者がいる。
ファミリー経営・ピクテの考え方スイスで伝統的なファミリー経営のプライベートバンカーズで評価の高いのは、やはりピクテであろう。
日本に早くから進出して投資顧問業やプライベートバンキングを行っているが、最近は特に投信業務に力を入れて日本市場参入を強化している。
3年前に東京の経営陣を方針の相違から総入替えして、より富裕層ビジネスの拡大に力を入れている。
最高パートナーのイワン・ピクテ氏は年に2〜3回は東京を訪問して、金融・証券界はもとより産業界の“大物”との交際を深めているが、このやや細身のダークスーツに身を固めた中年の紳士に会いたい、という資産家や著名人は彼の来日に合わせ、何ヵ月も前から面談を申込む。
ある宴席で「ピクテではお客を開拓する営業マンはいるのですか」とピクテ氏に尋ねたら「私が営業マンです」と答えが返ってきた、という逸話の持主である。
ピクテはこれまでブライベートバンキングの広告はしなかった。
スイスの他のプライベートバンクも同様で、広告はしても極めて控えめで小さい。
「社名と住所・電話番号」だけだった。
日本や欧米の銀行が毎日のように新聞、TV、雑誌などで広告しているのと対照的だ「広告は必要ない。
信用と実績の積み重ねで顧客は自然に増えてくるものだ。
顧客が新しい資産家を紹介してくれる」とかつてイワン・ピクテ氏は胸を張っていた。
しかし、最近ではこの方向に変化が出て来た。
ジュネーブのロンノード・オディエなどが共同で社名広告をかなり頻繁に新聞に出すようになったし、ピクテも投信やイメージの広告を出すようになった。
激しい競争の時代に黙っていては勝てないと思うようになったからであろう。
現地の新聞によれば、ピクテの1996年末の運用資産は830億スイスフラン(約6兆6000億円)で、前年比180億スイスフランの増加である。
このうち、機関投資家の資産が320億スイスフランで、投資信託が70億スイスフランであった。
ピクテは投信の運用も行っているが、その運用パフォーマンスは水準以上と言われる。
しかし。
1997年後半の日本やアジアを主とするエマージングマーケットの通貨の下落で国際分散投資を主流とするスイスの投信のパフォーマンスも大きな影響を受けている。
運用パフォーマンスが良いことはプライベートバンクとしてももちろん大事なことであるがこの考え方はアメリカとスイスではだいぶ違う」とイワン・ピクテは言っている。
スイスは「元本を割らないこと」。
とにかく「安全に増やすこと」を心がける。
しかし、アメリカは違う。
一般的にアグレツシブ(攻撃的)な運用を行う。
最も大きな相違は「元本割れでもマーケットの指標を上回っていれば良し」とする考え方だ。
スイスではこの考え方は通用しないし、まして顧客は納得しない、と強調する。
イギリス型のプライベートバンキングは、個人の富裕層を対象とした預金や貸出などバンキングサービスを基本としてこれまで成長してきた。
資産運用と信託サービスは後から加わったものといわれる。
これに対してスイスでは、プライベートバンキングは個人の資産管理から始まり、通常のバンキングサービスはあとから始まった。
この性格の相違はいまでも尾をひいている。
プライベートバンキングの顧客層もまた変化している。
クーツやジュリアス・ベアは依然として「個人的サービス」を前面に出している。
顧客に対しては証券市場や為替の動向についてのアドバイスばかりでなく、ゴルフ場やヨットの選択から、老齢の顧客がなにかトラブルに見舞われた時の問題解決までも相談にのるのである。
これは全く時間も労力もかかる仕事だが、これによって顧客との信頼の基礎を築いているのである。
これとは違った道を行くのがアメリカの銀行である。
アメリカのプライベートバンカー達は「いま老齢化世代から彼らの子供達へ資産の大移動が行われつつある」と考え、別の市場分野を追い求めている。
チエースでは、次の20年から30年の聞に、アメリカだけで7兆ドルから10兆ドルの資金が家族の聞で移動する、と予測しているからだ。
つい最近までは、人々はお金の安全性だけを考え、資産を大事に守り、利息の殖えるのを楽しみにしていたものだ。
しかし、最近のプライベートバンキングの顧客の中で、若い世代は全く違った財務戦略を持っている。
彼らの多くは大学を出ており、時には複雑な金融商品について銀行員よりも知識をもっている場合も少なくない。
スイスのプライベートバンクの顧客の資金ソースの地理的分布も大きく変わりつつある。
アジアからの資金が急増しているのである。
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